ここから本文です

ジャドソン・ブルワー: 悪い習慣を断ち切るシンプルな方法

2/20(月) 10:48配信

TED

Judson Brewer

翻訳

私が瞑想を習い始めたとき 指示はこんな簡単なものでした 「呼吸を意識しましょう 雑念が浮かんだら 呼吸に意識を戻しましょう」


そのくらい簡単だと思いました でも実際に 瞑想の合宿研修で 座禅を組んでみると 真冬なのにTシャツ1枚で 汗だくになりました 時間を見つけては 昼寝をしました 結構疲れるからです 実際 体力がもちませんでした 簡単な指示にもかかわらず 私には 肝心な何かが つかめていなかったのです


注意を保つのは なぜ こんなに難しいのでしょう? いくつかの研究によると 一生懸命 何かに集中しようとしても 例えば このトークを聞くにしても ある時点から 半分ぐらいの人が 上の空になったり Twitterを見たくなったりするそうです なぜ こうなるのでしょう? 実は こんなとき人は 現在知られている学習プロセスの中で 最も原始的なものの 1つと戦っています 最も基本的だと 研究からわかっている神経系に 刻み込まれたプロセスです


これは報酬に基づく学習プロセスで 「正の強化」および「負の強化」と呼ばれ 基本はこんな仕組みです 例えばおいしそうな食べ物を見ると 「カロリーだ! 食べて生き残れ!」と 脳は命じます そして口に入れ 味わい おいしさに満足します 特に砂糖が入っていると 体から脳へ こんな信号が送られます 「今 食べたものと どこで見つけたかを記憶せよ」 私たちはこれを「文脈依存記憶」として 脳内にとどめて そのプロセスを次回も繰り返すことを 学習します 食べ物を見る 食べる そしていい気分になる 繰り返す トリガー(きっかけ)→行動→報酬


簡単ですね やがて 独創的な脳はこう思い付きます 「なあ ちょっと 単純に 食べ物の在りかを 覚えとくだけじゃなく 今度 気分が落ち込んだとき 何か食べてみたら 気分がよくなるんじゃないか?」と それを 私たちは脳に言われるがまま実行し その結果を覚えてしまいます 悲しいときや頭にきたとき チョコレートやアイスクリームを食べると 気が紛れますよね


これも 同じプロセスです トリガーが違うだけ 胃から発せられる 空腹のシグナルではなく 感情のシグナル つまり「悲しみ」が 食欲のトリガーとなるのです


例えば 私らが10代の頃 学校では「オタク」だったのが 外ではワルぶって 喫煙してる連中がいたのを 「カッコイイ」と思って 自分もマネしてみたとか タバコ広告のモデルが本当にカッコいい 時代もありましたからね カッコいい姿を見る カッコよくなるために吸う いい気分になる だから繰り返す これも「トリガー→行動→報酬」です これを実行するたびに 同じプロセスを繰り返して学習し これが 習慣になります こうして 強いストレスが トリガーとなり タバコが吸いたくてたまらなくなったり 甘いものが欲しくなったりします


一方 脳の同じプロセスによって 生き延びるための学習が 悪習と化し 文字どおり 自殺行為となってしまっています 例えば肥満や喫煙は 世界の罹患・死亡要因の中でも 回避できるものの代表的な例です


呼吸の話に戻りますが 自分の脳に抵抗したり 無理に何かに意識を向けようとする代わりに 「報酬に基づく学習プロセス」を 活用してみるのはどうでしょう コツがあるんですよ 呼吸する間 自分の体が経験することに ひたすら注意を向けるんです


例を挙げますね 私の研究室では マインドフルネス・トレーニングが 禁煙に有効かどうかを研究しました 私が無理して呼吸に意識を 向けようとしたのと同じように 無理やり喫煙の習慣を断とうとする というやり方もありました 参加者の大半はそうやって禁煙を試み 挫折を経験した人でした 平均6回失敗していました


でも このトレーニングでは 参加者に何かを強制するのではなく 好奇心を持つように促しました 実際 喫煙を勧めさえしました 本当です 「どうぞ吸ってください どんな気分になるか 関心を持って観察してみてください」と


さて その結果は? ある参加者のコメントを紹介します 「マインドフルネス喫煙は 臭いチーズみたいなニオイで 薬臭い味だった オエッ!」 彼女はもともと 喫煙が良くないという 認識があったからこそ 私たちのプログラムに参加したわけです そんな彼女が 喫煙したときの感覚に 興味を持つことで発見したのは 「タバコはクソまずい」ってことでした


(笑)


こうして彼女の中で 知識が知恵に変わりました 「喫煙は良くない」と 頭で理解しているだけの段階を抜けて つくづく 骨身に染みたので 喫煙の魔法は解けました タバコを吸うという自分の行為に 幻滅するようになったんです


このとき 前頭前野は ここは脳の進化の過程では 最後に生まれた部分ですが 知能の域では 喫煙すべきではないと理解しています そんな前頭前野は 一生懸命 人が行動を変えられるよう つまり喫煙をやめたり 2つ目 3つ目 4つ目のクッキーには 手を出さないように助けようとします 「認知的制御」というものです 人間は 行動を制御するために 認知を使うんです しかし 残念なことに この前頭前野は 強いストレスを受けると 働かなくなってしまうので それほど役に立ちません


これは皆さんも日常で 経験していることでしょう 配偶者や子どもに つい怒鳴ってしまうこと ありますよね ストレスや疲れがたまっていると そんなことしても意味がないと 分かっていても 自分が抑えられなくなります


前頭前野が働かなくなると 昔ながらの習慣に逆戻りしてしまいます 自分自身の行為への幻滅が重要な理由は ここにあります 習慣に従った結果を見つめることで 骨身に染みるほど深いレベルで 悪習の実態を自覚できます こうすると 行動を無理に抑えたり 我慢したりすることもなくなります そもそも その行為自体への興味が 薄まるからです


これがマインドフルネスの神髄です 悪習にとらわれた結果を 客観的に見据え 心底 嫌気がさすことで 昔の悪い習慣から自然に 離れることができるんです


魔法のように 一瞬にして 禁煙できるわけではないですが 時間をかけて 少しずつ 自分の行動の結果への 自覚が深まるにつれ 自然に昔の習慣が離れていき 新しい習慣が形成されます


ただし 矛盾があるんです マインドフルネスで大事なのは 関心を向けることです 移り行く一瞬一瞬の中で 自分の体と心に起こることのすべてを 敏感に感じ取ろうとすることです 良からぬ欲望を遠ざけようと焦るよりも 自分自身の体験に意識を 向けようとする意欲― つまりこの 体験に意識を向ける意欲の 土台となっている好奇心には 満足感をもたらす性質があります


好奇心って いい気分ですよね 好奇心を持つと 人はどうなるでしょうか? 欲求の正体は身体感覚に過ぎないと 気づけるようになります つまり緊張や不安感 そわそわ感などです この身体感覚は 現れたり消えたりします 自分の中で起きる 小さな体験であり そのつど 自分で制御することも可能です 私たちを苦しめる 巨大で恐ろしい欲求に やられっぱなしにはなりません


言い換えると 好奇心を持つことで 長年染み付いた 不安から来る 反射的な習慣行動から抜け出して あるがままの自分を 認められるようになります 自分の内面に科学者が誕生し 次のデータ点はどこだろうと 心待ちにするようになります


行動を変える方法として 安易すぎるように聞こえるかもしれませんが ある研究で マインドフルネスのトレーニングは 標準的な治療法に比べ 禁煙に 2倍の効果があると分かりました 実際に効き目があるわけです


また 瞑想の達人の脳を調べたところ 神経網の一部の 自己参照処理機能である― デフォルトモードネットワーク(DMN) が活性化していました 現存する仮説によると DMNの一部の領域である― 後帯状皮質と呼ばれる部分は 必ずしも 人が強い欲求を 抱いたときではなく 欲求にとらわれているときに 活性化するため 私たちはこれにだまされるそうです


逆に その衝動から距離を置いて 自分に起こっている変化を ただ注意深く観察することで プロセスから抜け出せば 後帯状皮質の興奮は収まります


さて現在 マインドフルネスを教える オンラインコースとアプリを試験運用中です これは 今お話しした脳のメカニズムに 働きかけて 皮肉にも 人々を 現実逃避に駆り立てている技術を活用して 不健康な習慣から抜け出すのに 役立てるというものです 例えば喫煙 ストレスからの過食 その他の依存的な習慣を断つためです


先ほど話した「文脈依存記憶」を 覚えていますか? このツールは その人にとって 一番大事な「文脈」で すぐに使えます つまり 人々が タバコの誘惑を感じたり ヤケ食いしたい衝動が起こったその場で 脳に本来備わる 注意深く意識する能力を 利用するのに役立てられるのです


喫煙やヤケ食いをしない人でも 暇つぶしに メールをチェックしたくなったり 仕事中に無関係なことを始めたくなったり 車を運転している最中に メールの返事をしたい衝動に駆られたりしたら 脳の本来の性質をうまく利用できるか 試してみてください ただ好奇心を持ち その瞬間 体と心に起こっていることを 観察してみてください これはチャンスです 終わりがなく 疲れるだけの悪循環に 一生付き合うか― 断ち切るかの分かれ道です


メールが来たら 反射的に 返信するのではなく 向き合い方を変えましょう 衝動に気づいて それに関心を持ち 手放す喜びを感じてください これを繰り返しましょう


ありがとうございました


(拍手)


つい引きずっている悪い習慣を新たな視点から捉え直すことで、その悪習を断ち切れるとしたらどうでしょう。 精神科医ジャドソン・ブルワーは、喫煙から過食に至るまで、よくないと自覚していても、どうしてもやめられない習慣、つまり依存症と「マインドフルネス」との関係を研究しています。習慣形成のメカニズムをまず詳しく学び、その知識をもとに、簡単に実行できるのに実は深い意味のある、悪習への対策を見つけましょう。今度こそ、つい一服、ほんの一口、車の運転中に一瞬だけメール…という誘惑に勝てるかもしれません。 ( translated by Kaori Nozaki , reviewed by Mai O )

動画撮影日:2015/11/18(水) 0:00
TED