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ダン・バーバー: 魚と恋に落ちた僕

2017/6/5(月) 14:48配信

TED

Dan Barber

翻訳

魚との出会いは多かったけど ほんとに好きになったのは2回だけ 最初の魚には 熱烈に恋した すごい美人で 味 歯ごたえ 肉質 文句なし メニューの売れ筋だった ほんとにステキなサカナちゃん (笑) さらに良いことには 養殖魚だった それも最高レベルの 環境に優しい養魚場で育てられた だから良心の呵責なし


数ヶ月の間 僕は この魚に もう夢中 ある日 養魚場のボスが電話してきた イベントで 話してくれないかって 養魚場が環境に優しいことについて 「喜んで」と僕はこたえた とうとう良心的な会社が現れたんだ シェフの最大の悩みを解決してくれる会社が それは「どうしたら魚をメニューに出し続けることができるか」ということ


過去50年の間に 人は海を荒らし続けた 森林を皆伐するように 破壊の規模は計り知れない 皆の大好きな 大型魚の90%がいなくなった マグロ オヒョウ サケ メカジキ 乱獲されて ほどんど絶滅状態だ だから しかたがない 養殖漁業は 時代の流れだ 反対意見が多い 養魚場は海を汚す これは本当 非効率的だ マグロを見ろ 最大の悪玉だ マグロの 餌の転換率は 15対1だ 餌の魚15ポンドが マグロの肉1ポンドになる とても環境に優しいとは言えないね 味も良くない


ところが ついに 正しいことをやろうという会社が現れたんだ この会社を応援したかった イベントの前日に 広報部長に電話をかけた この人をドンとしておこう


ドン 確認したいんだが 君の会社は 沖で養殖するから 海を汚さないんだろう?


「そうとも 沖合だから」 「排泄物は 拡散して」 「一カ所を汚すことはないんだ」 そして 「うちは 周囲の環境に依存してないんだ」 「餌の転換率? 2.5対1さ」 「業界ナンバーワンだ」


2.5対1か そりゃすごい 何の2.5対1なんだ 何を餌に使ってるんだい


「環境に優しいタンパク質さ」


そりゃすごいや 僕は電話を切った その晩ベッドで横になり 考えた 「環境に優しいタンパク質」って いったい何だ? (笑)


次の日 イベントの直前に もういちど電話した 環境に優しいタンパク質の例を挙げてくれないか


ドンは知らなかった 尋ねてみるよって 会社の担当者と電話で話した でも 誰もはっきりと答えてくれない 最後に電話に出たのは 主任生物研究員だった この人もドンとしとこう (笑)


ドン 環境に優しいタンパク質の例を挙げてくれ


彼が言うには 藻類 魚粉 そして 「チキンペレット」 チキンペレット?


「そうだ 羽根 皮」 「骨粉 くず肉」 「それを乾かして加工して 飼料にするんだ」


何パーセント チキンを入れてるの? たぶん2%位だと思ったんだ


「30%かな」


ドン それで環境に優しいのかい? チキンを魚の餌にして? (笑)


しばらく押し黙ってたよ そして言った 「だって 世界はチキンだらけじゃないか」 (笑)


僕の恋は冷めちゃったよ (笑) それは 僕が独善的な いい子ぶった 美食家だからじゃない ホントはそうなんだけどね (笑) 恋はすっかり冷めた 本当だよ 電話の後 魚がチキン味になったんだ (笑)


二番目の魚は 別の恋物語さ ロマンチックな恋だ 相手を知れば知るほど 好きになるという具合 最初の出会いは 南スペインのレストランだ ジャーナリストの友人が この魚の話ばかり 彼女が二人の仲人ってわけさ (笑) テーブルに運ばれてきた魚は 白身で 光輝くよう シェフが熱を通しすぎてた 二倍ほどね でも 驚いたね とってもおいしい


いったい誰が 魚を料理して 熱を通しすぎたのに おいしくできるだろう 僕にはムリだ でもこの男にはできる 彼を 仮にミゲールと呼ぼう 実は 本名なんだ (笑) 本当は 彼は料理してない シェフじゃないんだ 少なくとも僕たちが思うようなシェフじゃない スペインの南西端にある― ヴェタ ラ パルマ養魚場の 生物学者なんだ グアダルキビール川の河口にある


1980年代までは そこは アルゼンチンの業者が所有していて 肉牛の牧場だった もともとは 湿地帯だったものを 干拓したんだ 運河を張り巡らし 水を川に移した でも 農場はうまくいかなかった 採算が取れなかったんだ 生態系は 壊滅状態 90%の鳥が死んでしまった ここでの90%は 膨大な数の鳥だ それで 1982年に 環境保護に熱心なスペインの会社が この土地を買い取って


何をしたと思う? 水の流れを逆転させたのさ 文字通りスイッチを逆に入れた 排水するかわりに 水を運河に入れたのさ 運河をあふれさせて 109平方キロの養魚場を作った スズキ ボラ エビ ウナギ その過程で ミゲールと会社は 生態系の破壊を逆転させた この養魚場は素晴らしい こんなものは前例がない 水平線を見ると はるか遠くまで見渡せて 目の届く限り運河が水に浸かり 分厚い 豊かな 湿地が形成されている


最近僕はミゲールに案内してもらった すごいヤツだ この男は ダーウィンとクロコダイルダンディーを合わせたようなヤツ (笑) 僕らは 湿原に踏み込んだ 僕はあえいで汗びっしょり ひざまで泥だらけ ミゲールはすまし顔で 生物学を講義 ほら と指さして 「希少種の カタグロトビだ」 植物プランクトンに必要な無機質 さらに 生物群集を見て タンザニアのキリンを思い出した と言う


後で分かった 彼はそのキャリアの大部分を アフリカのミクミ国立公園で過ごしたそうだ どうやって と僕は尋ねた 魚の専門家になったんだい?


「魚? 魚については全くのシロウトだった」 「僕は生き物の関係性の専門家なんだ」 そして さらに話を続けた 希少な鳥類や藻類の話 珍しい海草の話


誤解しちゃダメだよ すばらしい話だった 生物共同体の それは見事な天国さ 素晴らしかった でも僕の方は 頭から離れなかったんだ くらくらして 前夜に食べた あの魚のことで それで 話題を変えて 尋ねた なぜ君の魚はあんなにおいしいの?


すると 彼は藻類を指さした


分かってるよ 藻類だろ 植物性プランクトン 生命の連環だろ すごいね でも 魚は何を食べてるんだい? 餌の転換率は?


彼が答えるには 「生態系が豊かだから」 「魚は自然にあるものを食べているのさ」 「水草 植物プランクトン」 「動物プランクトン そんなものが餌さ」 「生態系が健康だから」 「自然に すべてのものが再生する」 「餌なんてやってない」 聞いたことある? 餌をやらない養魚場なんて


午後遅く 養魚場の周りをドライブした ミゲール ここは自然そのものだね これまで見たどんな養魚場とも違う いったいどうやって成功の度合いを計るの?


と まさにその時 あたかも 映画監督が 背景の切り替えを命じたように カーブを曲がると 驚くべき光景が目に飛び込んできた ピンクフラミンゴが数千羽 目の届く限り カーペットを敷き詰めたよう


「これだ これこそが成功だ!」と彼は叫んだ 「あの おなかを見ろよ ピンク色だ」 「たらふく食べてるんだ」 食べてる? 僕は混乱した


鳥たちの食べてるのは君の魚だよ (笑)


「そのとおりさ!」 (笑) 「ここでは魚と魚卵の」 「20%を鳥に食べられるんだ」 「昨年ここには」 「60万羽の鳥がいた」 「250種以上だ」 「現在 ここは ヨーロッパ最大で」 「もっとも重要な」 「個人所有の 野鳥の楽園になっている」


鳥が繁殖するということは 君がもっとも嫌うべきことじゃないのかい? (笑) 彼は頭を振って 「ちがうね」


「ここでは粗放的な養殖をしている」 「集約的な養殖じゃない」 「これは生態系のネットワークなんだ」 「フラミンゴがエビを食べ」 「エビが植物プランクトンを食べる」 「だから おなかがピンクであればあるほど」 「生態系は健全ってわけさ」


じゃあ ここで復習だ この養魚場は 魚に餌をやらない 養魚場はその成功の度合いを 魚の天敵の健康状態で計る 養魚場でありながら 野鳥の楽園 そうそう あのフラミンゴたちは そもそも ここに来るべきじゃないんだ フラミンゴの巣は遠くの町 240km離れたところにある そこは土の状態が 巣を作るのに適してるんだ 毎朝 フラミンゴは飛んで 240kmを 養魚場まで来る 夕方になると 240kmを飛んで 巣に戻る (笑) フラミンゴは ハイウェイ A92号線の 白線に沿って 飛んでくるのさ (笑) ホントだよ


僕は 映画の「皇帝ペンギン」を想像してたんだ それでミゲールに尋ねた ミゲール フラミンゴが240kmを 飛んで ここに来て 240km 飛んで 巣に戻るけど それは ヒナのためかい?


彼は ホイットニー ヒューストンの歌詞を聴いたかのように 僕を見て (笑) 言った「違うよ 餌がいいからさ」 (笑)


この魚の皮については言ってなかったね とってもおいしいんだ でも僕は本当は皮は嫌い 焼いても嫌い カリカリでも嫌い 苦みがあって タールのような味がするからね 皮をつけて料理することはまずないんだ でも レストランでその魚を食べたときには それは魚の皮みたいじゃなかった 甘くて 清らか 大海の一片を 口に入れたと思った ミゲールにそう言うと 彼はうなずいて 「魚の皮はスポンジだ」 「異物への最後の防御壁だからね」 「不純物を吸い取るように進化したのさ」 そして こうも言った 「ここの水には不純物がないんだ」


もう一度復習 養魚場は魚に餌をやらない 養魚場は天敵の繁殖状態で その成功を計る ここで ようやく僕は気がついた 養魚場には不純物がないと聞いて 彼がまだ言ってないことに 気づいたのさ それは この養魚場に流れ込む グアダラキビール川の水が 運んでくるものは 今日の川が運んでくるものすべて 化学汚染物質 流れ出した殺虫剤 その水が この養魚場の中を通って 流れ出る時 水はきれいになっている 生態系が健全なので 水を浄化するんだ この養魚場は 魚に餌をやらないだけでなく 養魚場の成功を計るのに 天敵の健康を目安にするだけでなく 文字通り水質浄化工場なんだ そして 魚だけじゃなく 君たちや僕のためにもなっている だって 水がここから 大西洋に入るだろ 大海の一滴に過ぎないけれど 僕は大事なことだと思う 君たちもそうだろう この恋物語は とてもロマンチックだが 教訓的でもある これは 未来のおいしい食のための レシピと言えるだろう スズキだろうが肉牛だろうが関係ない


今僕たちに必要なのは 農業に対する画期的な思考法だ 食べ物を本当においしくする考え方だ (笑) (拍手) でも大多数の人には これはちょっと過激すぎる 僕らグルメは現実主義者じゃない 僕らは恋愛主義者さ 僕らは 農場直営のマーケットが好き 家族経営の農場が好き 土地の食材について熱く語り 有機食品が大好きさ でも 今言ったことが おいしい食の未来だと 説明すると 必ず誰かが立ち上がって言うよ 「ねえ君 ピンクフラミンゴは僕も好きさ」 「でも それで世界が養えるかい?」 「どうやって世界の食を確保するんだい?」


正直言って この質問は嫌いだね 僕らがすでに 世界中の人たちに 十分な食料を生産しているからじゃない 今 10億人の人が飢えている 10億人 歴史始まって以来だ 実は 飢えは分配の不平等で生じるんだ 生産量じゃない この質問が嫌いなのは この質問が 過去50年の食糧政策を支えているからだ


「草食の家畜に穀物を与えろ」 「単一栽培して 殺虫剤をまけ 土に化学肥料を」 「魚にチキンを」 この間 農業ビジネスが 言ってきたのは 「より多くの人間に」 「より安い食料を与えることほど」 「バカげたことがあるだろうか?」 これが動機なんだ これが理由なんだ これがビジネスモデルなんだ アメリカの農業のね この正体は 「投げ売りビジネス」だ 生産を成り立たせる 生態系の資本を 急速に崩壊させているんだ これは ビジネスなんかじゃない 農業でもない


世界の食料庫が危ういのは 供給が減ってるからじゃない 資源が枯渇してきたからだ 新しい農業機械が発明されないからじゃない 肥えた土地が不足しているからだ ポンプや真水の不足じゃない チェンソー不足じゃない 森林が減っているからだ 漁船や漁網の不足でもない 魚が減っているからだ


世界の食を確保するには まず 僕たちの食を確保することを考えよう どうしたら すべての共同体が 自らの食を確保できる状態を 作り出せるか考えよう (拍手) そのためには 現在の農業モデルは 古くて時代遅れだ 資本 化学物質 機械に頼りすぎだ 本当においしいものができたためしがない かわりに エコなモデルを見習おう それは20億年の 現場の体験に基づいているんだ


ミゲールを見習おう ミゲールのような生産者を見習おう 環境に配慮した農家を見習おう 荒廃を止めて回復させる農家を見習おう 粗放的に経営する農家を見習おう 集約的な経営じゃない 単なる生産者ではなく 命のつながりを大事にする農家を見習おう 彼らこそが 味を大事にするからだ いいかい 正直なところ 彼らの方が僕よりも腕の立つ料理人だ でも 僕はそれでいい それが未来のおいしい食のあり方さ ほっぺが落ちるよ


どうもありがとう (拍手)


ダン・バーバーは、今日のシェフが皆抱えている問題、つまり、「どうやったら魚をメニューに載せ続けることができるか」という問題の解決を見いだしました。徹底的な調査を行い、真顔でジョークを飛ばしながら、ダンはあこがれの「環境に優しい」魚を追い求めた顛末を熱く語ります。彼は、ついにスペインで、画期的な方式の養魚場でとれた、信じられないほど美味しい魚と出会ったのです。 ( translated by Haruo Nishinoh , reviewed by Takako Sato )

動画撮影日:2010/2/10(水) 0:00
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