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パラグ・カンナ: メガシティが塗り替える世界地図

8/10(木) 9:42配信

TED

Parag Khanna

翻訳

地球上での人間の暮らしが どう組織されているか 捉え直してみましょう 地球は人体で そこに我々が 住んでいると考えるのです 骨格に当たるのが 道路や線路 橋やトンネル 空港や港といった 交通システムで そのおかげで 我々は大陸を隅々まで移動できます 人体に活力を与える 血管系に当たるのが 石油やガスのパイプラインと 送電網で これがエネルギーを供給します コミュニケーションを担う 神経系に当たるのは インターネットケーブル 衛星や携帯電話ネットワーク データセンターで これにより 情報の共有が可能になります


拡大し続ける このインフラ基盤は 現在 6400万kmの道路 400万kmの鉄道網 200万kmのパイプライン 100万kmのインターネットケーブルから なっています では 国境線はどうでしょうか? 国境は50万km足らずに過ぎません


もっと適切な世界地図を作りましょう その第一歩は 過去の神話を 乗り越えることです 歴史学者なら誰でも知っている 言葉があります 「地理が運命を決める」 重々しい言葉ですよね 運命論的な響きがあります この言葉から伝わるのは 内陸国は貧しくなる運命にあり 小国は より大きな隣国から 逃れられず 距離の隔たりは 克服できないということです でも世界中を旅していると いつも 至る所で急速に広まる はるかに強い力の存在に気づきます 「接続性」という力です


地球に広がる接続性という革命は 運輸、エネルギー、コミュニケーションなど あらゆる領域に及び 人、物、資源、知識の移動性を 飛躍的に高めており もはや地理と接続性を 分けて考えることはできません 私は この2つの力が融合したものを 「接続性の地政学」と名付けました


接続性の地政学は 人、資源、アイデアの移動における 飛躍的な進歩を描くものであると同時に それ自体が1つの「進化」― 世界の進化なのです つまり政治的な地理学という 世界を正統に分割する方法から 機能的な地理学という 実際に我々が 世界を利用する方法への進化であり 国家や国境から インフラや サプライチェーンへと向かう進化です


我々が生きる世界の構造は 19世紀における 垂直に統合された帝国から 20世紀における 水平の 相互依存関係にある国家を経て 21世紀における 地球規模の ネットワーク文明へと進化しつつあります 主権ではなく 接続性こそが 人類を組織する 原理になっているのです


(拍手)


我々は この地球規模の ネットワーク文明を実現しつつあり 文字通り築き上げている最中です 全世界の防衛予算と 軍事支出を合わせると 年間総額で 2兆ドルを少し下回る程度ですが 世界全体のインフラ支出は 今後10年間で 年9兆ドルに達すると 予想されています しかも それは当然の成り行きです 我々は これまで 世界人口が30億人だった頃の インフラ資産に頼って 生活してきましたが 今や人口は70億人を超え 80億人に向かい いずれ90億人を超えるのですから つまり 大まかに言うと 基本インフラのニーズに応えるには 人口10億人当り 年間 約1兆ドルが必要になるのです


そして予想通り その先頭に立つのはアジアです 中国は2015年に アジアインフラ投資銀行の 発足を宣言しましたが これにより他の組織と共同で 上海からリスボンにまたがる 「鉄のシルクロード」のネットワークを 構築しようとしています


そして これらの「地理工学」技術が 進展するにつれて 今後40年間の インフラへの支出や インフラの建設は 過去4千年間のそれを上回るでしょう


ここで少し立ち止まって 考えてみましょう 社会を破壊する道具よりも グローバル社会の基盤整備に はるかに多くの資金を 投資することで 重大な結果が生じる可能性があります 接続性とは 世界中の人と資源の配分を 最適化する手立てであり 人類が個人の合計を超える力を 全体として発揮する手立てです 今 起きているのは そういうことだと思います


21世紀には 接続性と並ぶ もう1つの大きなトレンドがあります 地球全体の都市化です 都市は我々を規定するインフラです 2030年までに 世界人口の3分の2以上が 都市に住むことになるでしょう また 都市は単なる 地図上の小さな点ではなく 数百キロに渡って広がる 巨大な群島になっています


今 我々がいるバンクーバーは カスカディア人口密集地帯の 北に位置していますが アメリカ国境を超え 南はシアトルまで広がっています テクノロジーの原動力である シリコンバレーは サンフランシスコの北から 南はサンノゼ ― 湾をはさんで オークランドまで広がります ロサンゼルス大都市圏は 今ではサンディエゴを越え メキシコ国境を挟んで ティフアナにまで伸びています サンディエゴとティフアナは 空港ターミナルを共有していて どちらの国にも出国できます ゆくゆくは高速鉄道網が 太平洋沿岸一帯を結ぶかもしれません アメリカ北東部のメガロポリスは ボストンを起点とし ニューヨークと フィラデルフィアを通って ワシントンD.C.に至ります この一帯には5千万人以上が暮らし ここにも高速鉄道網の計画があります


一方 まさにメガシティが 出現しつつある場所がアジアです 東京、名古屋、大阪を通る この光の筋の中には 8千万人以上が住んでおり 日本経済の大部分を占める 世界最大のメガシティです ― 今のところは


一方 中国では 1億人近くの人口を抱える メガシティ群が 出現しつつあります 北京近郊の渤海沿岸の地域や 上海周辺の長江デルタ ― 香港から 北は広州まで広がる 珠江デルタにも 内陸部には 重慶・成都メガシティ群があり その総面積は オーストリアに匹敵します


そして これらメガシティ群はいずれも GDPが2兆ドルに迫る勢いですが これは現在のインドのGDPと ほぼ同じ規模です 想像してみてください もしG20のような 国際的な外交会議の参加資格が 国家ではなく 経済規模に基づいていたら どうなるでしょう 中国のメガシティのいくつかが 参加するようになる一方で アルゼンチンやインドネシアといった 国家は席を失うでしょう


インドに目を向けると 人口は中国を追い抜く勢いで 多くのメガシティ群を抱えています たとえば デリーの首都圏や ムンバイです 中東では イランの3分の1の人口が テヘラン周辺に集まっています エジプトでは 8千万人いる国民のほとんどが カイロ・アレクサンドリア間の 地域に住んでいます ペルシャ湾岸では ネックレスのように並ぶ 都市国家群が出現しつつあり バーレーンとカタールにはじまり アラブ首長国連邦を経て オマーンの首都マスカットまで広がっています


それからアフリカ最大の都市で ナイジェリア経済の中心地 ラゴスがあります 大西洋岸回廊を結ぶ ― 鉄道網を整備する計画があり ラゴスを拠点として ベナン、トーゴ、ガーナを経由し コートジボワールの 首都アビジャンまでを結びます


今あげた国々は いわばラゴスの郊外です メガシティの世界では 国家が都市の郊外になりうるのです 2030年までに 世界中で50か所もの メガシティ群ができることになるでしょう では どちらの地図が多くを語るでしょう? どこの家の壁にも貼ってある 200の国々が載った これまでの地図でしょうか? それとも50のメガシティ群の 地図でしょうか?


ただ これでも完全ではありません 相互のつながりを理解しない限り 個々のメガシティを 理解したことにはならないからです 人々はつながりを求めて 都市に移住し 接続性が これら都市群の繁栄する要因です サンパウロやイスタンブール モスクワといった多くの都市のGDPは 国全体のGDPの 3分の1から半分にまで迫り さらに それを超えつつあります


また同じくらい重要なことがあります それぞれの都市の価値は 繁栄をもたらしている 人、資金、テクノロジーの流れが果たす ― 役割を理解しない限り 評価できないのです 南アフリカのハウテン州を 例にとりましょう ここにはヨハネスブルクや 州都プレトリアがあります ここでもGDPは南アフリカ全体の 3分の1を超えています もう1つ重要な点は 南アフリカやアフリカ大陸全土に 直接投資をしている 多国籍企業のほとんどが ここに拠点となるオフィスを 構えていることです


都市は地球規模の バリューチェーンの一部となり グローバルな分業の一端を 担いつつあります これが都市の意図なのです 自分の街を孤立させたい市長など 私は見たことがありません どの市長も自分の街が 国に属していると同時に 地球規模のネットワーク文明にも 属していることを理解しているのです


さて 多くの人々は 都市化に不安を抱いています 都市が地球を破壊していると 考えています 一方 現在 ― 200以上の都市間の情報交換ネットが 盛り上がっています これは今 存在する 政府間組織の数と ほぼ同じです そして この都市間ネットワークは すべて1つの目的 ― 21世紀における 人類の最優先事項である 「持続可能な都市化」に 力を注いでいます


これは成功しているでしょうか? 気候変動を取り上げてみましょう ニューヨークやパリで 次々に開かれたサミットでは 温室効果ガスの排出量は 削減できないのは明らかです 一方 都市が技術、知識、政策を 相互に交換することこそ 経済活動による二酸化炭素排出量を 減らす手立てになるのです


都市は互いに学び合っています どうやって排出量ゼロの建物を増やし 電気自動車のカーシェアリングを どう展開するか といったことです 中国の主要な都市では 自動車の走行台数を 制限しています また西側の都市の多くでは 若者の自動車離れがすすんでいます 都市は これまで 問題の一因でしたが 今では解決策の一部なのです


持続可能な都市化の もう一つの重要な課題は格差です 私がメガシティを 何時間も あるいは何日もかけて 端から端まで巡っていくと 同じ土地なのに 極度の格差があるという 悲劇的状況が見えてきます それにも関わらず グローバルな金融資産総額は 史上最高額となる 300兆ドルに迫る勢いです これは世界の実質GDPの ほぼ4倍に当たります


我々は世界金融危機以降 巨額の負債を抱えていますが 果たして それを包括的な経済成長に 投資してきたでしょうか? いいえ まだです 誰にでも手の届く公営住宅を 十分に建設し 人々がデジタルだけでなく 物理的にもつながれるような 強力な輸送ネットワークに 投資するようになってはじめて 分断された都市や社会が 一体感を得られるのです


(拍手)


国連の「持続可能な開発目標」に インフラ構築が含まれたのも それが他のあらゆる項目の 基盤になるからです 政財界の指導者たちは 接続性が慈善活動ではなく チャンスだということを 理解しつつあります だからこそ財界は 接続性こそ21世紀の 最も重要な資産だということを 認識する必要があるのです


都市には 世界をより持続可能で より公正なものに 変えうる力があるだけでなく 都市間の接続性を通して 世界はさらに平和になると 私は考えています 国境を跨いで密接な関係を築いた地域に 目を向けると 貿易や投資が増えるだけでなく より安定することがわかります 誰もが知っている話ですが 第二次世界大戦後に ヨーロッパで 産業の統合がすすんだことが 現在の平和な欧州連合を生む きっかけとなりました ちなみにロシアが 国際システムの主要勢力の中で 最もつながりが薄い理由も明らかでしょう これは現在の緊張関係を説明する 手がかりになります つまり システムに あまり関与していない国は システムを乱しても あまり失うものがないのです 北米では地図上で最も重要な線とは アメリカとカナダの国境や アメリカとメキシコの国境ではなく 道路や鉄路、パイプライン ― 電力網、運河からなる 緻密なネットワークであり これが北米連合を 一つにまとめています 北アメリカに必要なのは 壁ではなく つながりなのです


(拍手)


一方 接続性の本当の将来性は 旧植民地世界にあります かつて実に作為的に国境が引かれた あらゆる地域で 歴代の指導者たちが 敵対し続けてきました ところが現在 新世代の指導者が権力を持ち 和解がすすんでいます


東南アジアを見てみましょう バンコクとシンガポールを結ぶ 高速鉄道網や ベトナムからミャンマーに至る 貿易回廊の計画があります 現在6億人が住むこの地域は 農業資源と工業生産の 協調を図っていて 私が「アジアの平和」と呼ぶ 安定した東南アジア諸国の関係を 実現しつつあります


同じような現象は 東アフリカでもすすみ 6か国が 鉄道など複数の輸送方法を連携させた 回廊形成に投資し 内陸国の物資を 市場に届けようとしています 現在こういった国々では 公益事業と投資政策の協調を図り 「アフリカの平和」を 実現しつつあるのです


このような発想が 特に役立つと思われる地域が 中東です アラブ諸国が悲劇的な形で 崩壊しつつある今 カイロやベイルート バグダッドのような古都以外に 何が残るでしょう? 実は アラブ世界に住む およそ4億人が ほぼすべて都市へと移住しています 社会あるいは都市には 水資源やエネルギー資源が 豊富な場所も 乏しい場所もありますが このような不均衡を解消する 唯一の方法は 戦争でも 国境を引くことでもなく パイプラインや運河で 接続性を高めることです 残念ながら これはまだ 中東の地図上では実現していませんが 相互につながった ― 「アラブの平和」を実現するため 内部的な統合をすすめると共に 生産性を高めるつながりを ヨーロッパやアジア、アフリカといった 周辺地域との間に持つべきです


さて 政情が不安定な地域に 今すぐ接続性が必要とは 思えないかもしれません しかし長期的に見ると 接続性の向上が 安定をもたらす唯一の方法だと 歴史が示しています 接続性が新たな現実になっている地域が 次第に増え 都市や国家は一つにまとまって より平和で繁栄した ― 共同体を形成しつつあります


一方 試金石となるのはアジアでしょう 果たして接続性は 極東の大国間の敵対関係を 乗り越えられるでしょうか? 何と言っても 第三次世界大戦が始まるのは 極東だと考えられていますから 25年前に冷戦が終結して以来 この地域では少なくとも6つの戦争が 起こると予想されてきましたが 実際には1つも起きていません


中国と台湾を見てみましょう 1990年代には誰もが第三次大戦が 始まるとしたらここだと考えていたのですが その頃から 海峡を挟んだ貿易取引額と投資額が あまりに巨額になったため 2015年11月には 双方の指導者が 歴史的な首脳会談を開き 「一つの中国」の原則を確認しました さらに2016年初頭に台湾では 独立を志向する [民主進歩党]が勝利しましたが 基本的な方向性は 変わりませんでした


一方 中国と日本の間には さらに長い対立の歴史があり 領土問題で互いの力を誇示するため 空と海上で軍事力を展開しています その一方で近年 日本の最大の対外投資先は 中国であり 中国における日本車の販売台数は 記録的な数に上ります また現在 日本に住む 外国人で一番多いのは どこの出身者でしょう? そう 中国です


中国とインドは紛争中で 3つの国境問題を抱えていますが アジアインフラ投資銀行への 出資額 第2位はインドです 両国が構築中の貿易回廊は 北東インドから ミャンマー、バングラデシュを経て 中国南部まで広がり 両国の貿易量は 10年前は200億ドルだったのが 現在800億ドルに膨らんでいます


核武装をしているインドとパキスタンは 3度の戦争を経て 今もカシミール地方を 巡って争っていますが 同時に両者は 最恵国待遇について交渉し イランからパキスタンを経由し インドに至るパイプラインの 完成を目指しています


次にイランについてです イランとの戦争は必至と思われたのは ほんの2年前のことなのに なぜ あらゆる大国が商機を求めて イランに殺到するのでしょう?


皆さん ― 第三次大戦が起こらないと 断言はできません ただ まだ起きていない理由は はっきりしています 確かにアジア各国は 急速に軍事力を増強していますが 同時に国同士がインフラや サプライチェーンに 何十億ドルも投資し合っています こういった国々は互いの 政治的地理より 機能的地理に 関心があるのです だからこそ各国の指導者は 熟考を重ね ギリギリのところで踏みとどまり 領土問題の緊張よりも 経済連携に目を向けようとするのです


世界は分裂しつつあるように 見えることもありますが 接続性を高めることこそ バラバラになった世界を 以前より はるかに良い形で 元に戻す方法なのです 世界を 物理的あるいはデジタルの 接続性で隙間なく覆うことで 地理的制約を超えられる世界へと 進化していくのです 我々は グローバルな 接続性のネットワークに息づく 細胞であり 血管です


毎日 何億もの人々が インターネットを通して 顔を合わせたこともない人々と 協働しています 毎年10億人以上が国境を超え 10年後には30億人に達すると 予想されています


我々は単に接続性を作るだけでなく それに命を与えています 我々が生きるのは グローバル・ネットワーク文明であり これが我々の地図 ― 地理で運命が決められることのない 世界の地図です 未来に向けた 新しく希望の膨らむ 別の言葉があります 「接続性こそが運命を決める」


ありがとう


(拍手)


「地球上での人間の暮らしがどう組織されているか、捉え直してみましょう」と、グローバル戦略家パラグ・カンナは語りかけます。拡張しつつある私たちの都市が、運輸・エネルギー・コミュニケーションのネットワークによって今まで以上につながっていくにつれて、これまでの「地理」は彼の言う「接続性の地政学」へと進化します。姿を現しつつあるこのグローバル・ネットワーク文明は、環境汚染や不平等を減らし、さらには地政学的な敵対関係を解消する可能性を秘めています。カンナは未来に向けた新しい行動原理を受け入れることを、私たちに提案します。それは「接続性が運命を決める」という原理です。 ( translated by Kazunori Akashi , reviewed by Natsuhiko Mizutani )

動画撮影日:2016/2/17(水) 0:00
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