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アナンド・ギリダラダス: この時代に行き場を無くした者たちへの手紙

8/14(月) 10:27配信

TED

Anand Giridharadas

翻訳

2016年6月29日


拝啓 親愛なる仲間の市民へ―


今日 私が手紙を書いている相手は 時代に負かされてしまったあなただ いまこの瞬間 私たちの日常は 完全に分断され 悪意に満ち 恐れが蔓延した世界だが


私はこの手紙を ただ あなたへと書いている 双方ともに 「あなた」の後ろに たくさんの「あなた」がいて 「わたし」の後ろにたくさんの 「わたし」がいることを知っているけれども


私がこの手紙を今書いているのは 共に暮らすこの世界の揺れが 恐ろしくなったからだ あなたもそうだと思う 私たちが恐れる物のいくばくかは 双方に共通する しかし恐れの大部分は お互いへと向けられているようだ あなたは私が生きたいと思う世界を恐れ 逆に 私はあなたの理想とする世界を 恐れている


嵐が来る前にその前触れとして 感じるあの感覚を 知っているだろうか 仲間の市民よ あなたも 今その感覚を覚えているだろうか その不安や心配は 1930年代を知る者には 当時を 思い起こさせるものだろう


きっとあなたは気づいていない それは私たちが互いに感じる恐怖は 同時には生じないからだ 今この段階では あなたが私に感じる恐怖 ―私が双方のためになると主張してきた 世界に感じる恐怖が 1世代に渡って積み重なってきたと 私は感じる あなたの恐怖が 私に恐怖を与えるまで 少し時間がかかる なぜなら 始めは 自分があなたを恐れる必要があるとは 考えもしなかったのだから なおさらだ


私はあなたの声を聞いていた しかし耳を傾けてはいなかった この間ずっと この素晴らしい新世界が あなたと 多くの人たちにとっては 素晴らしくはないと あなたは言っていたのに この産業化を遂げた世界― 人と物と技術がどこへでも 思うがままに世界中を動きまわる この開かれた世界を 私は享受したが あなたは解放されなかった


私はあなたの街を歩いた そして認識はできずとも見てきた 私はテキサス州のスティーブンビルの 町の広場に面する建物は 法律事務所ばかりが 軒を並べているのに気付いた 刑務所への出入りを繰り返す すべての人のおかげだった サウスダコタ州のワーグナーでは さびれた店と 退役軍人クラブの集会所が かつての皆の夢を あざ笑うかのように建っていた ペニシルヴァニア州ランカスターでは ウォルマートに集う あまりに多くの20代 30代の若者が まるで死を待つだけの老人に見えた 彼らは ボロボロで赤茶けた肌で 痩せこけて 髪はよれよれで 歯は黄ばみボロボロになっていて 目に宿るのは喪失感


パリやフローレンスやバルセロナで 会った若者たちは 学位を持っていたのに どこにも働く場所が無かった 30代になるまで インターンとして生計を立てており 彼らは社会人としてスタートすることすら 許されていなかった それは経済が富を生み出しはしても 仕事を生み出しはしないからだ ロンドンのある区画がゴーストタウン化 しているというニュースを聞いた 世界中の超富裕層の怪しげな資金が 空家のマンションに注ぎ込まれて 長くその街に住む者たちや 新生活を始めた若いカップルたちの 住まいが奪われてしまったのだ


人々の生活が根本的なところから 破壊されていると聞いた かつては仕事をすることができた 今はそれすらかなわない かつては子供を産み育てることができた そして子供たちには自分たちより 少しばかり良い生活を約束してやれた しかし今はそれができない かつては自分の仕事に誇りをもてた それも今はできない かつてはあなたのような人が 自分の家をもつことは当たり前だった 今は違う


これらの現実を 知らなかったことにはできない でも 地球で苦しむあなたから目を背け 火星で暮らせる未来を作りだすことに 没頭していた あなたたちの多くが 両親よりも 短い一生を送ることに目を背け 不死を発明することに 没頭していた


私はあらゆることを耳にした しかしそれを頭に入れることはしなかった 私は見た しかし認識はしなかった 私は読んだ しかし理解はしなかった


私は― あなたが投票に行ったり声をあげ始めて そしてそれらの行動の実体が 私を恐れさせ始めたときに 注意を払うようになった


大陸連合を破壊する方向に進み 扇動政治家を選んだとき 初めて耳を傾けた


そしてようやく あなたの痛みが 私の関心事になった


痛みを知ることが たいてい 痛みに対処する際の 発端になると知っている 私は今になって悔やんでいる あなたが微かに感じているだけのときに 一緒に声をあげていたら これほど躍起になって解決すべき問題には ならなかったのではないかと


私は なぜあなたと一緒に 立ち上がらなかったのかと 自問自答している


一つには 私は変革のカリスマに 夢中になっていたからだ 私は 目新しさそのものに価値があるという 信仰に染まった 国際化や国境を開くことや 目まぐるしく変わる多様性を信じた


私の信念を寄せ集めた結果が 「変化」となったとき 私は盲目になった 変化の結果を考えることすらしなかった ルーツや伝統や風習や持続性 そして帰属意識といった 重要なものを 私は軽視できた


私が 解放と変革の 原理主義者へと なればなるほどに あなたを 真逆の方向へと向かわせた 固執し 立ち止まり 壁を作り 帰属する方向へと


以前にはわからなかったことが わかるようになった 肌の色だとか 器官の障がいだけが 不利な立場の種類ではないこと こうした特権的な特質を満たしていても 歴史が自分の意に沿わないように 展開すると感じるというのも わずかなことで声高には語られないが 不利な立場と感じるものだ 過去が あなたにとって 心地よいものだったのに 未来は他の人たちにとって 心地よいものになっていくだろうという感覚だ 未来は他の人たちにとって 心地よいものになっていくだろうという感覚だ 日々 世界が自分にとって親密でなくなり 少しずつ自分のものではなくなっていく


古い特権意識を弱めてはならないなどとは 少しも思わない しかしそれには時間がかかるだろう 特権階級に属しているからといって 特別な待遇を受けることのない 新しい時代に生きることを あなたは覚悟したほうがいいだろう もしあなたの怒りが憎しみに変わるときには 憎しみを受け入れる余地が 私たちの 共通の社会にはないことを知っておいてほしい だが仲間の市民よ 私は認めよう 地位を失なうということの重荷を 軽視してきたことを 社会的に必要なことが 誰かを個人的に苦しめることもある ということを忘れていた


同様のことが 私たちが共有する経済のなかで起きた ちょうど 平等と多様性に関して 時を巻き戻すことができず 巻き戻したいとも願わないが 平等と多様性が呼び起こす 喪失感があることも 理解しなければならない より緊密で皆が協力しあった時代へ そして発明が次々と起こった時代へ 戻りたいとは思わないし 願うことすらかなわない それにもかかわらず あなたが味わったことを 理解していかなければならない


あなたは数年もの間 社会は 私の理論で予想した方向には 変わっていっていないと言ってきた


私はあなたが陳情を終える前にすら― それは 不規則な労働時間と 不安定な給与では生活が苦しいこと それは チャンスが無いこと 午前3時の出勤時間を守るために 子供を24時間のケアサービスに預けるのは 心が重いこと あなたの言葉が終わる前に 私は言い返した― 私の信条を いかにあなたがフレキシビリティと自由を 得ているかを


言葉は私たちが共有する 数少ないものの一つだ そして私は時々この共有財産を使って 物事をうやむやにし 偏向し 自身を正当化するために― つまり 私にとって都合のいいものを さもお互いにとって 良いものであるように言い換えた 私がしつこく「共有経済」 「混乱」「世界に労働力を求める」 といった言葉を口にしたとき


今になって認めるが 私が実際にしていたのは あなたの苦労を安く買いたたき 見た目だけ取り繕い 「自由」と名前を付けて あなたに売り返すことだった


私は自分の生活をスムーズにする 自分にとって心地よい社会が あなたにとってもベストなのだと 信じていたかったし そしてあなたにも信じてほしかった


私は あなたが 自身の 経済的利益に反して投票しており 自身の利益を損なっていると あなたを理解しているかのように 偉そうに講釈をたれた それは私の独善的な 経済論にすぎないのだ 私には弱点がある それは 人々は 自分の経済利益にこそ 唯一の興味があると考え 帰属意識や誇りや あなたを無視する人に 何かを伝えたいという希望を無視している点だ


そうして辿り着いたのが 不安だけれど説明がつかないわけではない 今の時代だ デマが流行し 社会は傷つき 外国人を排斥し 怒りと恐怖が蔓延している


しかし私が危惧するのは ずっとこのまま 私は耳を傾けようとせず あなたは声が届いていないと感じて 声を聴けと叫び続けることが 続くのではないかと


私たちそれぞれが お互いがいない社会を 願うときがくるのではないかと危惧している


もし この状態が続くなら 本当にこの状態が続くのなら 血が流れることになるかもしれない この流血の兆候は 毎日 新聞で目にすることができる もしかすると一斉検挙や取り締まり 国外追放や強制収容 国の解体などが 起こるかもしれない 大げさに言っているつもりはない すでにけりが着いたはずの場所で 戦争がおきるという話もささやかれる


でも救済されるという希望は常にある それは戯言のような 一緒に頑張ろうという 安っぽく浅はかな救済ではない もっと実効性を伴うものだ


そのためには「私たちは望んでここにいる」 ということを受け入れなければならない


私たちは「他人」を創り出す 親として 隣人として 市民として 私たちはお互いの実在を認め 時にはそれを無視する


人は復讐心とともに生まれてきたりはしない 人々が復讐を渇望するとき 私には役割がある そして今 その渇望は私に さらに手の込んだ逃亡を誘う 私たちの日常から― 学校から 隣人から 空港から 遊園地から それは私たちがかつて共有したものだ


それならば それら膨大で人間味のない力ではなく あなたと私に関わる問題に目を向けよう 私たちをここに至らせた お互いに関わりあう道を選ぼう 私たちがここから抜け出せるよう お互いに関わりあう道を選ぼう


そのためには手放さなければ ならないこともある 仲間の市民よ 現実から目をそらすことをやめよう


想像してみてほしい― もし特定の人たちが追放された社会を 願望するのをやめたらどうか もし私が 世界を救うだとか 未来をどうするかを あなたのいないところで 審議をするのをやめたらどうか あなたの仕事や あなたの食料や あなたの学校の未来をどうするかを あなたの仕事や あなたの食料や あなたの学校の未来をどうするかを あなたの仕事や あなたの食料や あなたの学校の未来をどうするかを あなたがセキュリティーを通過できない場所で 審議するのを


私たちが今まで お互いを無視してきたことを認めたとき 初めて取り組みが始まる この不吉な時期に呼び出すことのできる 希望があるとしたら これだろう 私たちは長い間ずっと 陽炎のような夢を追いかけてきた 大事なことに目を背けながら― お互いにとっての大事な夢に お互いに目を向けることに お互いの疑問をぶつけあうことに ともに歴史を作ることに 私たちは きらびやかなものに 目を奪われる前に お互いの夢を そこにあるものとして それらに取り組むことができるはずだ


今こそやってみよう


敬具


仲間の市民より


(拍手)


2016年夏、ポピュリズムの反乱の只中、怒りと恐怖がぶつかる中、ライターのアナンド・ギリダラダスは講演を行うのではなく手紙を読むことを選びました。これはこの変革の時代の勝者から敗者、あるいは敗者と感じている者へ向けた手紙です。そこでは痛みが怒りに変わるまで無視してきたことが告白されています。そして無関心なエリートが実体のない世界を救うために描く理想郷や未来志向をたしなめています。それは地球にいる人々を救おうとせず、火星に人々を移住させることに気を病むといったことです。またこの手紙では、排他的で独善的な考えにしがみつくことを否定し、代わりに私たちに「お互いの夢に取り組むこと」を呼びかけています。 ( translated by Yuya Koike , reviewed by Claire Ghyselen )

動画撮影日:2016/6/29(水) 0:00
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