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ロイド・ペンドルトン: ハウジングファーストというホームレスへの取り組み

8/7(火) 9:49配信

TED

Lloyd Pendleton

翻訳

長年 路上で生活している人を 住居に住まわせたら 何が起こると思いますか? 精神衛生上の問題を抱えた― アルコール依存症のその人たちに 路上から直接 住居に移ってもらうと どうなるでしょうか? 私たちは ニューヨーク市で この実例があると聞いていました ハウジングファーストと呼ばれるモデルで ユタ州でも これが うまくいくだろうかと思いました


その判断を下すために 実際に試すことにしました キータはこの試みに含めた 慢性的ホームレス17人のうちの 1人でした 彼女は20年以上 路上で暮らし 精神衛生上の問題を抱え 重度のアルコール依存症でした キータはアパートでの最初の夜 持ち物をベッドの上に置き 自分は床で寝ました そのあと3日間は アパートの付近にある― ゴミ収集箱のそばで寝ました 彼女のケースマネジャーの助けもあり アパートの部屋に戻ったキータでしたが それから数日間は やはり床で寝ていました 2週間以上かかって 彼女は それが自分のアパートであること また それが取り上げられないことを知り 少しずつ信頼と自信を築き ようやくベッドで眠り始めました


ホームレスの問題は アメリカ全土で多くの都市が抱える― 継続的な難題です 私たちはホームレス人口を 主に3種類に分類します 一時的ホームレス これが約75% 断続的ホームレスが 約10% そして慢性的ホームレスが 約15%です 慢性的ホームレスの定義とは 同伴者のいない成人のうち 1年以上継続的にホームレスであるか 3年以内に5回以上 計365日 ホームレスになったことがある人のことです ホームレス人口のうち このたった15%が 1つのコミュニティーで利用可能な ホームレスのための資源の50~60%を 消費してしまう可能性があります 更に そのコミュニティーに対し 慢性的ホームレス1人当たり 年間2万~4万5千ドルの 緊急対策費が かかる恐れがあります 例えば 救急救命士の出動や 救急外来受診は 皆さんもご存知のとおり その他にも 依存症や警察とのいざこざ 服役などがあります 簡単に言えば このわずかな人口に とても費用が掛かるということです


この実態に基づき アメリカ政府は 2003年に 州や市や郡を招き 慢性的ホームレス状態を 10年以内になくす計画を 策定するよう提案しました ユタ州はこの招待に応じ 私はこの取り組みを 先導するよう依頼されました 私たちは2005年に10年計画を承認し それから10年後の2015年 慢性的ホームレス人口の 削減を達成しました 州全体で91%の削減です


(拍手)


これは驚くべきことです このプロセスに着手した当初 ホームレスやその要因について 自分には限られた理解しかないと 自覚しました そして自分の信念や考えを 大幅に変える必要があると思いました なぜなら私は 強固な個人主義の理論と 「自力で何とかしろ」という教育で 育てられたからです この価値観を持っていたのは ユタ州西部の砂漠にある小さな町で 家族が経営する畜牛牧場で育ったためです 牧場で学んだのは どんな事よりもまず 牛の世話が最優先であること いつも何かしらの修理が必要であること そして何より 勤勉さが世の中を正すという考えでした 私はこの価値観を通して ホームレスの人々を見ていました 10代の頃 家族で よくソルトレイクシティへ行きました 当時 私たちはホームレスの人々を 「ホーボー」と呼んでいましたが そこで路上に座っている彼らを見て 私はこう思ったものです 「なんて怠け者なんだ 仕事を見つけて自力で何とかしろ」


高校卒業後 私は牧場を離れ 大学を卒業し フォード・モーター社に数年間 働きに出て 末日聖徒イエス・キリスト教会での 仕事を得たため ソルトレイクシティに戻ってきました 教会で働いていた時期に ユタ州最大のホームレス保護施設で 仕事をする機会がありました 施設の財政・管理能力を 開発し改善させる支援でした


そこで働く中で 私はホームレスの人や薬物中毒者への 新しい対処法を知りました それはハームリダクション (危害の軽減)と呼ばれ 清潔な注射針やコンドームの 配布をする対策でした 「また馬鹿なことを考えたもんだ」 と私は思いました (笑) 「それでは彼らに今の行動を 続けるよう促すようなものだ 止めろときっぱり言えばいい」 数年後 私は連邦政府の促しにより作られた― 慢性的ホームレス解消のための 10年計画の初期資料を読みました 計画書に目を通しながらこう思いました 「ふん!非現実的だな ホームレスをなくすなんて無理だ 私たちの手には負えない 個人の選択や要因がありすぎる」


ですが私の見方は変わりました 2003年 ある会議に出席した際 私はその10年計画の 裏にある理由を知ったのです まずは この慢性的ホームレスの人口が 15%と少ないにも関わらず とても費用がかかることです これはユタ州のような 保守的な州には うなずける話でした


2つめの洞察はハウジングファーストについて 知ったことです あるいは― ローバリアハウジング (居住障壁の緩和)でしょう ニューヨーク市では ある機関が 精神障害を抱えるホームレスの人々に 路上からそのまま住居へ 移ることを勧めていました 彼らはドラッグや酒を 引き続き許されてもいました 私たちが自宅でできるのと同じようにです 強制ではありませんが 更に 彼らにはサービス提供がありました 現場にケースマネジャーが来て 彼らが新しい生活環境に慣れて 落ち着いて暮らせるよう 手助けしてくれるサービスでした ここではハームリダクションが 用いられていました 私は最初 この支援モデルに あまり期待していませんでしたが 驚異的な成功率を実現しており 12カ月後も 85%もの人が 住居に住み続けていました


3つめの洞察は 信頼関係を築くことの大切さでした こうした人々は人生のほとんどを 虐待されながら生きてきたので 誰も信じなくなっています 清潔な注射針やコンドームや ローバリアハウジングは 信頼関係を築き始めるための手段であり 必要不可欠でした


私は会議から家へ帰る飛行機の中で 窓の外を眺めながら ホームレスについての自分の理解や見方が 変わり始めていることに 気がつきました 窓の外をじっと見つめながら とても強い感情と考えが湧き上がりました もし この国で 慢性的ホームレスを なくすことができる州があるなら それはユタ州だと思ったのです なぜなら そこには隣人の役に立つために 協力しようとする― 気持ちや願望や意欲が 人々の根本にあるからです 隣人とはホームレスの人々も含みます これを実現するための新たなビジョンが 私の中で鮮明になっていきました


会議に出席した私たちは 「ユタ州でもできるだろう」と言いましたが いざ帰ってみると 多くの人々が 「いいや ここではうまくいかない」と 言いました しかし 手頃な料金の住宅機構があり 最初の100ユニットを 建ててくれると言いました ですが 慢性的ホームレスの人々を 100人も1カ所に集めることに 地元民は不安を抱いていました その不安を払拭するため 初めの100ユニットの建設を進める間 この計画の試行をしました ソルトレイクシティに点在する 既存のユニットを活用したのです


そして 議論したのは ホームレスの中でも 社会生活に問題の少ない人を選ぶべきか それとも 最も困難と思われる人を 選ぶべきか ということです ここで 私の牧場育ちの 生い立ちが役立ちました 昔 母は まきや石炭を燃やす調理台で 食事の支度をし 週に一度の風呂の湯を 沸かしていました 長年 調理台用のまき割りをして 私が学んだのは 丸太を割る時は 体力があるうちに まず太い方の端から取りかかることです この「太い端ファースト」法を 用いることにした私たちは 17人の最も困難で 扱いが難しいと思われる 慢性的ホームレスの人々を選びました 彼らから最も多くを学ぶだろうと 分かっていたからです 22カ月後 17人全員が住居に住み続けていました キータも含めです 彼女は 11年後の現在も 自分のベッドで眠り お酒を断っています


この試行の最後に 若いケースマネジャーの1人がこう言いました 「私たちは大学の授業で どのケースマネジメント理論が 最も効果的かをよく議論しました 今の私たちが考える ケースマネジメント理論とは― 彼らを住居に住み続けさせるのに 必要なことは何でもする です」 私たちは信じる者になりました そして その後10年間にわたり 何百ものユニットを建て 州全体の慢性的ホームレス人口の削減率を 91%にまで上げました


では ホームレスとは何者なのか? 多くの人は 彼らを遠ざけ 姿を消してほしい 生活を邪魔しないで と思います この10~11年間のプロセスを通し 人がホームレスになる理由について 多くの洞察を得ました そのうちの1つは 数年前に得たものです 私は医療地域連携チームと共に 訪問調査をしていました 彼らは第一線で働く人々で 路上のホームレスや 売春婦に話しかけ 健康状態をチェックしていました チームメンバーの1人が言うには そこにいた売春婦8人が 31人の子供を産み その子供たちは 州の被後見人になったそうです そして 売春をあっせんする者の中には 彼女たちの夫や 更に悪いことには 親までいると言うのです この売春婦たちは 10代後半、20代、30代前半で その日に必要なお金を稼ぐことを 期待されるわけですが それは1日100ドルかかる ヘロイン中毒や 生活費 そしてあっせん者を養うためでした 無防備な性交渉だと 支払われる金額は上がり 予想どおり これが妊娠につながります こうした状況下で生まれた子供たちは 多くの場合 ホームレスになります そんな状況下で生まれた子供たちや 我が子を7歳で薬物中毒にしてしまう親や 薬物中毒の親から赤ん坊が生まれるのを見て 絶望を感じないとしたら 思いやりに欠けています 全ての人間は価値ある存在だと 私は信じています それが誰であろうとです そして こんな風に人生が始まった人々を 居場所のことで責めるのは 思いやりに欠けています


(拍手)


「私の夢はホームレスになることです」 と言って大人になる人などいません つまりハームリダクションや ハウジングファーストの良い点は 複雑に絡み合う様々な要因により 人生が形成されうることを 認めているところです これらの支援モデルでは 私たちが彼らのいる場所へ行きます 私たちがいる場所ではなく 私たちが考える 彼らがいるべき場所でもありません


17人と共に行った試みで 多くの教訓を得ました 人は長年 路上生活をしていると 住居での暮らしに戻る際 たくさんの学習を必要とします ドナルドは そんな移行についての教訓を 教えてくれました 寒いアパートで暖房をつけない彼に ケースマネジャーが なぜかと聞くと 彼は「どうやってやるんだ?」と言いました 彼はサーモスタットの使い方を教わりました また そのケースマネジャーは ドナルドが長年 焚火の上でそうしてきたように 缶詰のまま 豆を調理台で 温めているのを目にしました 彼はなべやフライパンの 使い方を教わりました 彼に25年会っていない 姉妹が1人いることも分かりました ドナルドが死んだと思っていた彼女は 彼が生きていることを知って喜び 彼らはまもなく繋がりを取り戻しました キータやドナルドのような 何百人もの人々が 今では住居に住み 家族との繋がりを取り戻しています また 私たちのコミュニティーの多くが 緊急対策費を 以前より抑えることができています


私は何度も学びました 心を開いて誰かの話を聴き 彼らの立場になって考えたなら 彼らを愛し 気づかい 何かできることは無いかと 思わずにはいられないでしょう 私が身を投じて ホームレスの人々へ 希望と支援をもたらし続けようとするのは こうした理由からです 私は彼らのことを 自分の兄弟や姉妹だと思っています


ありがとうございました


(拍手)


精神衛生上の問題を抱え長い間ホームレス状態の人に、路上から直接住居へ移ってもらったらどうなると思いますか?ロイド・ペンドルトンが、「ハウジングファースト」と呼ばれるホームレスへの取り組みの中で懐疑的な立場から信じる者へと変わった自らの経験を話します。ペンドルトンは、ハウジングファーストにおいて住む場所を失った人々に対し早急に無条件で永久的住居を見つけるための短期援助を行い、その結果としてユタ州での慢性的ホームレス人口を10年間で91%削減することに成功しました。 ( translated by Midori T , reviewed by Masaki Yanagishita )

動画撮影日:2016/11/30(水) 0:00
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