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アレックス・オノルド: 900メートルの絶壁をいかにしてロープなしで登ったのか

11/5(月) 10:07配信

TED

Alex Honnold

翻訳

皆さんに 僕の人生で最高の一日から 30秒ほどを ご覧いただきましょう


(拍手)


ヨセミテ国立公園にある エル・キャピタンです 一応説明しておくと 単独でロープを 使わずに登っています 「フリーソロ」と呼ばれる クライミング方法です 10年近く夢見てきたことが 実現した時で 映像は地上750メートル地点です 怖そうですか? 確かに怖いです だからこそ 長年フリーソロで 登ることを夢見ながら できずにいたのです でも この映像を 撮った日には まったく恐怖を 感じませんでした あの日 ヨセミテで多くの人が していた散策と変わらず 快適で自然なことのように 感じていました


今日 お話しするのは 僕がどう恐怖を克服し 快適に感じることができたのか ということです まず どのようにしてクライマーに なったのかを簡単に話し それから 2大フリーソロ登攀の 話をします どちらも成功しました だからこそ 今ここにいるわけですが―


(笑)


1本目の成功には だいぶ不満が残ったのに対し エル・キャピタンの登攀は これまでの人生で最高に満足した時でした この2つの登頂から 僕が恐怖を 手なずける方法が分かるでしょう


クライミングは10歳の頃に ジムでやり始めました 20年以上の間 クライミングが僕の人生の 中心にあったということです 10年近くもっぱら屋内で クライミングをしていましたが その後 岩場を実際に登るようになり 徐々にフリーソロをし始めました 長い時間をかけて 自信を付け だんだんと より大きく 困難な壁に挑戦していきました 僕の以前にもフリーソロをする人は たくさんいて 目標には事欠きませんでしたが 2008年までには ヨセミテで行われた フリーソロのほとんどをやり尽くしてしまい 未踏の壁への挑戦を 考えるようになりました 最初に考えたのは ハーフドームでした ヨセミテ渓谷の東端にそびえる 特徴的な600メートルの壁です


難題であり 魅力でもあったのは 巨大すぎる ということでした いったいどう準備したらいいのか 見当も付きませんでした だから準備するのはやめて 直接行って試してみる ことにしました 自分は本番には強いと 思っていましたが 当然ながら最善の戦略では ありませんでした


とりあえず2日前に 同じルートを 友達とロープで繋ぎ合って登りはしました おおよそどういう 所なのか把握し 体力的に登れるか 確認するためです でも2日後に 一人で戻って来たとき 別のルートを 行きたくなりました 一番の難所を 100メートルほど迂回する 経路があるのが 分かっていて 急に難所を避けて そちらに行くことにしました 以前に登ったことのない ルートだったんですが― そしてすぐに 疑念が沸いてきました 600メートルの絶壁の ど真ん中に独りいて 迷子になるのが どんなものか想像してください


(笑)


幸い その行き方でも 間違ってはおらず 本来のルートに 戻ることができました 少し― いや相当動揺していましたが 心を乱さないよう 努めました 一番大変な部分が先にあることが 分かっていたので 心を落ち着ける 必要がありました よく晴れた9月の朝のことで 高く登っていくほどに 頂上にいる旅行者の 話し声や笑い声が聞こえてきました 反対側にある通常の 登山道を登ってきた人たちで 下りはそちらを 行くつもりでした 頂上までにはまだ のっぺりした 花崗岩の壁が控えていました つかめるような割れ目や 突起がなく ただ表面に小さなうねりが あるだけの90度近い絶壁です 滑りやすい花崗岩と クライミングシューズの間の摩擦に 命を託さねば なりませんでした 注意深くバランスを取り 重心を移動させながら 進みました それから不安のある 足掛かりの所に来ました 2日前には その上に乗ったものの その時はロープがありました 今見ると 随分小さく 滑りそうに見えました 体重をかけても 足が引っかかるか疑問でした 足をもっと向こうに伸ばすことを考えましたが もっとまずく思え 足を入れ替えて さらに足を伸ばそうとしましたが なおさらまずい感じで パニックになりかけました すぐ上の頂上から 人々の笑い声が聞こえました どごでもいいから別の場所に 行きたいと思いました 様々なことが 心をよぎりました すべきことが分かっていながら 怖くてできませんでした ただ右足に体重を預ける 必要がありました 永遠と思える時が過ぎて 為さねばならぬことを受け入れ 右足に体重をかけました 足は滑らず 死ぬこともありませんでした その1歩は 最も困難な登攀の 終わりを告げるものでした そこから頂上へと 突き進みました ロープやたくさんの登攀具を 身に付けて ハーフドームの 壁を登り切ったなら 旅行者が驚いて 写真を撮りに集まってくるものです この時の僕は 半身裸で息を切らし 興奮して崖っぷちから現れましたが 誰も何とも思いませんでした


(笑)


崖のそばにいる ハイキングで 道に迷った人みたいに見えたのです まわりには 携帯でおしゃべりしたり お弁当を食べている人たちがいて ショッピングモールにでも 来た気がしました


(笑)


きついクライミングシューズを脱ぐと 下山し始めました 人々が僕に目を向けたのは その時です 「裸足でハイキングしてるの? こりゃ すごいな!」


(笑)


あえて説明しようとも 思いませんでした その晩 登山日誌に ハーフドーム登頂のことを記しましたが しかめ面の絵と 一言を付け加えました 「もっとうまく?」


このフリーソロに成功し 初の偉業として 称えられました 友人が映画にも してくれました でも不満が残りました たまたま切り抜けられただけで 満足な出来では ありませんでした 僕は運の良いクライマーではなく 優れたクライマーになりたかったのです その後の1年かそこらは フリーソロを離れました 幸運頼みで登っていては 駄目だと思ったからです でも フリーソロを していなくとも エル・キャピタンのことを 考えるようになっていました 誰もが認めるフリーソロの究極として いつも脳裏にありました あれほど圧倒的な壁は 他にありません その後の7年間 「今年こそは エル・キャピタンに登ろう」と 思い続けました そしてヨセミテに行って あの壁を見上げて思うのです 「こりゃ無理だ」と


(笑)


あまりに大きく 恐ろしいのです でも ついにエル・キャピタンへの 挑戦を決めました それは道を 究めることでしたが 自分の感じ方を 変える必要がありました 幸運にもどうにか切り抜けた というのでは駄目で 今回はちゃんとやりたいと 思ったんです


エル・キャピタンに 威圧されるのは その壁の大きさのためです 900メートルの垂直の 花崗岩の壁を登るには 大抵のクライマーは 3~5日かけます あれほど大きな壁を 靴とチョークバッグだけで 登り始めるというのは 考えがたいことでした 900メートルの壁を 登る上では 何千という手足の 動作があり 覚えるのは大変です 僕は動作を 繰り返すことで覚えます エル・キャピタンは 過去10年間に ロープありで50回くらい登っています この写真は 僕が好きな 練習法を示しています 300メートルの ロープを使って 頂上から壁面を 下りていき 独りで一日中練習します 安全で再現可能と思える 手順を見付けたら それを覚える 必要があります 体に染みついて間違う可能性が ないというところまで 持って行かなければ なりません これは正しいルートなのか 最良の足場を使っているのかと 迷うようなことには なりたくありません すべてが自動的に できなければいけません


ロープありのクライミングというのは 概ね肉体的な取り組みです しっかりつかまって 登っていける力が必要なだけです でもフリーソロでは 精神的な部分が大きいのです 肉体的な部分では そう違わず 登るのは同じ壁ですが どのようなミスも 死を意味すると知りながら 平静を保ち 最高の力を出すには ある種の境地が 求められます


(笑)


笑うところじゃないんですが まあ可笑しいのかもしれません


(笑)


そのような境地を 視覚化によって培いました 壁を独りで登る過程全体を イメージするんです それは手掛かり 足掛かりを 覚えるためでもありますが 手掛かりの肌触りを感じ 脚を伸ばして慎重に足を置く感覚を イメージするというのが 視覚化の主要な部分です 地上数百メートルでする ダンスの振り付けのようなものです


ルートの中で最大の難所は 「ボルダープロブレム」と呼ばれています 600メートルくらい 登ったところにあり 最も難しい動作を 要求されます かすかな手掛かりは間隔が隔たり 小さく滑りやすい足掛かりしかありません かすかな手掛かりとは こういうのを言っています 縁が鉛筆の幅ほどもなく 下向きになっていて 親指で押し上げなければ なりません でも ここで一番難しかったのは 最寄りの角の内側に 左足を空手の蹴りのように 伸ばすところで 動きに高い精度と 柔軟性が求められます そのために1年間 毎晩のストレッチをして 余裕を持って脚を 届かせられるようにしました


動作の練習をしながら 視覚化は感情的な部分に 向かいました そこまで登って 怖くなったらどうするか? あまりに消耗していたら? あの蹴り込みが うまくできなかったら? 安全な地上にいるときに すべての可能性を 考えねばなりませんでした 本番でロープなしに その動作をしているときに 疑念の忍び込む 余地がないように 疑念は恐れの前触れです 恐怖を感じていたら 完璧な瞬間を 体験できはしないと分かっていました 疑念を払拭するため 十分に 視覚化と練習をする必要がありました


その上で 不可能に思えたらどう感じるか という視覚化も行いました それほどの努力の末に 挑戦する勇気が出なかったら? ただ時間を 無駄にしているだけで そのような状況に身を置く気に ならなかったとしたら? 簡単な答えはありませんが 見いだす努力をするに値するほど あの山は大きな存在でした


準備の中には つまらないものもあります これは友人のコンラッド・アンカーが 空のリュックを背に エル・キャピタンの 下の方を登っているところです 壁の中央の とある亀裂部分を 一緒に登りました 緩んだ岩が詰まっていて 難しくて危険な箇所です 変な所に足をかけたら 石が転げ落ちて 下にいるクライマーやハイカーを 殺しかねません そのため僕達は注意深く 岩を取り除いてリュックに詰め 懸垂下降して 降りてきました 壁を500メートル登って ただリュックに 岩を詰めて帰るというのが どれほど馬鹿げて感じられるか 想像してみてください


(笑)


岩で一杯のリュックは 担ぐだけでも大変ですが 絶壁の上となると尚更です 馬鹿みたいであっても やらねばならないことでした あのルートを ロープなしで登るには すべてが完璧と 感じられなければなりません エル・キャピタンのフリーソロの準備に 2シーズンを費やし ようやく準備が完了しました ルート上の手掛かり 足掛かりを すべて把握し 何をすべきか 正確に分かっていました 僕は登る準備が できていました エル・キャピタンのフリーソロに 挑戦する時です


2017年6月3日 朝早く起き ミューズリーと 果物という いつもの朝食を取り 日の出前に壁の付け根に 辿り着きました 壁を見上げて 自信を感じました 登り始めると 一層自信を覚えました 150メートルほど登って ハーフドームで手こずったのに似た 岩壁のところに来ましたが 今回は違っていました 両側の壁 数百メートルに渡って あらゆる選択肢を検討し 何をどうすべきか 正確に把握していました 疑念はなく ただひたすら登っていきました 骨の折れる難しい箇所でさえ 楽々と過ぎていきました 決めた手順を 完璧にこなしていきました ボルダープロブレムの 下で少し休憩し それから 何度となくロープを付けて 練習した通りに 登っていきました ためらうことなく 左の壁に脚を蹴り込み うまくできたことが 分かりました


ハーフドームの制覇は 大きな目標であり 達成はしましたが 本当に求めていたものは 得られませんでした 究めてはいなかったのです 躊躇し 恐れ 望んでいた体験にはなりませんでした エル・キャピタンは違いました 残り200メートルになって 山が勝利の周回を させてくれているように感じました 順調に正確さをもって登り 崖を飛び交う鳥の声を 楽しんでいました すべてが祝福のように 感じられました 3時間56分の 素晴らしいクライミングの末に 頂上に辿り着きました それは望んだ通りのクライミングで 究めたという感覚がありました


ありがとうございました


(拍手)


900メートルの垂直の壁の真ん中に命綱なしでいるところを想像してみてください。ロッククライマーのアレックス・オノルドには、この目の眩む状況こそ、10年ずっと夢見てきたものだったのです。このゾクゾクする講演で彼は、いかにヨセミテ渓谷のエル・キャピタンに登頂し、かつて行われた最も危険なフリーソロクライミングを成功させたのかを語ります。 ( translated by Yasushi Aoki , reviewed by Natsuhiko Mizutani )

動画撮影日:4/10(火) 0:00
TED