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ガイ・ウィンチ: 失恋の傷心から立ち直る方法

2/11(月) 9:46配信

TED

Guy Winch

翻訳

人生のどこかで 大抵の人は失恋を経験します


例えば 私の患者の1人 キャシーは 中学生の頃 人生設計を立てました その計画では 彼女は将来の夫に 27歳で出会い その翌年に婚約して さらに次の年に結婚する予定でした 実際に 27歳になってみると 見つけたのは夫ではなく 片方の胸のしこりでした それから何か月もの間 彼女は つらい化学療法と 痛みを伴う手術に耐えました 回復が進んで 恋愛にいそしむ準備が整った矢先 もう一方の胸にも しこりが見つかり 同じ治療を繰り返しました キャシーは再び回復し 治療で抜けた眉毛が生えそろったら 結婚相手探しを再開したいと 思っていました ニューヨークで愛を求め 初デートに向かうには さまざまな感情を表現できないと いけませんからね


(笑)


ほどなくして 彼女は リッチに出会い 恋に落ちました 2人の関係は 全て彼女の思い通り 順調に進みました そして半年が経った頃 ニューイングランド地方で 素敵な週末を過ごした後 リッチは 2人のお気に入りの 雰囲気のいいレストランを予約していました キャシーはプロポーズされると予想し ワクワクした気持ちを抑えて どうにか平静を装いました


ところがリッチは その夜 キャシーに求婚しませんでした 別れを告げたのです 彼はキャシーを 心から大切に思ってはいましたが ときめきは感じなかったのです


キャシーは絶望しました 彼女の心は 文字通り壊れ また回復の日々に向き合うことになりました でも 別れから5か月が経っても キャシーはリッチのことを どうしても忘れられません 彼女のハートは まだ粉々に砕け散ったままです ここで質問です なぜ こうなるのでしょう? 彼女のように驚くほど芯が強く しっかりした女性でも 気持ちを整理できないのは なぜでしょう? 4年もの間 がん治療に耐え抜いた 強い女性なのに 傷心から立ち直ることにかけては なかなか前に進めない人が多いのは なぜでしょう? 人生の中で直面する さまざまな課題を 乗り切るための対処法が 失恋にも応用できそうなのに 実際には全く成功しない理由は何でしょう?


20年以上にわたり 私のクリニックで あらゆる世代や立場の人々が いろいろなタイプの失恋に 直面するのを目にする中で 私は 次のことを学びました 恋に破れて心が傷付いた時 普段は頼りにするべき 自分の本能が 何度でも繰り返し 自分自身を 間違った方向に導くのです この時ばかりは 自分の心の声に 従ってはいけません


例えば 失恋した人の研究から 明らかになったのは 恋人との関係が終わった理由を はっきり自覚することが 次の一歩を踏み出すのに 非常に重要だということです たとえ 何度も繰り返して 相手が別れの理由を 簡潔かつ率直に説明したとしても― 例えばリッチがキャシーにしたことですが― 心は理解を拒みます 失恋は とても激しく 感情を傷付けるため 別れの理由も その傷と同じぐらい 深刻なはずだと考えるのです その本能的な心の声が強すぎて とても合理的で落ち着いた人々でさえ 謎や陰謀のせいだという 結論に達しうるのです そんなものはないのに キャシーは何かあったのだと 考えました リッチとの小旅行の間に 気持ちが冷める何かがあったのだと 彼女は 何がまずかったのかを 突き止めることにこだわりました とてつもなく長い時間をかけて その週末の行動を分刻みに振り返り 記憶をたどって ありもしない手がかりを探したのです キャシーは心の声に惑わされて 無駄な試みを始めてしまったのです しかし 何が原因で 彼女はその試みを 何か月も続けたのでしょう?


失恋は人々の予想を はるかに超える危険な事態です 自己嫌悪が増すだけだと分かっていても 出口のない 誤った考えに 陥ってしまうのには理由があります 脳の研究で分かったのは 恋愛関係が終わると 脳内で ある経験をした時と似た 仕組みが活性化するということです コカインやオピオイドの中毒者の 離脱症状に似ているのです キャシーは離脱症状にあったのです 彼女は 「リッチと一緒に過ごす」という ヘロインが得られなくなったので 無意識のうちに 「彼との思い出」という メサドン つまり代替品にすがるのです 頭では謎解きに 取り組んでいるつもりでも 実際にやっていることは 麻薬を打っているのと同じです だから失恋から立ち直るのは 容易なことではないのです 薬物中毒者は 中毒の自覚があります 自分で注射したのを覚えていますから 失恋した人は 中毒の自覚はありません 今は分かりますね あなたの心が傷付いていたら 無視してはいけません どれほど強い衝動に駆られても 認めなければなりません 思い出のひとつひとつをたどり 交わしたメールを読み返し ソーシャルメディア上で 元恋人をストーキングするたびに 自分の中毒を悪化させ 心の傷を深くして 回復をこじらせているだけなのだと


失恋を乗り越える過程は 「旅」ではありません 「戦い」です 理性が最大の武器となります 心の底から納得できる 別れの理由なんて存在しません あなたが感じる心の痛みは 理屈では取り除けないのです 別れの理由を探すのはやめましょう 待つのも無駄です 相手の言葉をそのまま受け入れるか 自分でこしらえましょう そんな疑問は忘れてしまうのです 中毒から抜け出すには 決着をつける必要があるからです 必要なことは これだけではありません 自分から進んで 過去を忘れ 関係が終わったことを受け入れるのです そうでないと はかない望みに すがりたい気持ちがわいて あなたの足を引っ張ります 失恋した時には 希望は 非常に有害なものになりうるのです


失恋は 人の心を操る名人です やすやすと感情を揺さぶって ある方向に導きますが それに流されると 本来の自分を取り戻すのに必要なものから どんどん遠ざかります 傷心の時期に つい やってしまいがちなのは 別れた相手を理想化することです 何時間も物思いにふけっては その人の笑顔を思い出し 2人で過ごした素敵な時間を思い 一緒に山へハイキングに出かけて 星空の下で愛し合ったことを思ったりします 思い出したところで 喪失感がますます高まるだけなのに わかっていても なお こんな風に「最高の思い出」を 何度も繰り返しかみしめるのは 自分で作った「受動的攻撃」プレイリストを Spotifyで聞き続けるようなものです


(笑)


失恋することで こうした考えが 頭に浮かんでしまいます 理想化するのを避けるため バランスを取らなくてはなりません 笑顔だけではなく しかめっ面も思い出すのです どれだけ最低な仕打ちを受けたか 本当は山で愛し合ったあと 帰りに道に迷い 大ゲンカして2日間 口を利かなかったことなどです 私が患者さんにお願いするのは 徹底したリストを作ってもらうこと 別れた相手が 自分に合わない理由のリストです 悪いところを事細かにあげつらうのです それを携帯電話に保存しておきます


(笑)


このリストを作ったからには 活用しなくてはいけません 私のカウンセリングの途中で 患者さんが ちょっとでも昔を懐かしんだら 私は即座に「ケータイを見て」と言います


(笑)


人の脳は 別れた相手こそ理想だと 思いたがるのです 実は全然違います 関係だって完璧ではなかった 失恋を乗り越えるには 自分にそう言い聞かせる必要があります 何度でもです


恋に破れて傷付かない人はいません もう1人の患者さん ミゲルは56歳でIT企業の役員でした 5年前に奥さんに先立たれ ようやく 新しい相手を 探す気になったところでした 彼はシャロンに出会って めくるめくロマンスが すぐに始まりました 成人している互いの子供に 1か月後には 交際相手を紹介し 2か月後には同居を始めました 中年ともなると 交際で あれこれ迷ったりしません 『ラブ・アクチュアリー』に 『ワイルド・スピード』を足したような展開です


(笑)


ミゲルは数年ぶりに 幸せそうな様子を見せていました ところが 交際を始めて1周年となる日の前夜 シャロンは彼を捨てました 子供たちの近くで暮らすため 西海岸に引っ越すことを決めた彼女は 遠距離恋愛を望まなかったのです ミゲルにとっては全くの不意打ちで ひどく打ちのめされました 仕事が手につかない状態が 実に何か月も続き その結果 職も失いかけました 失恋がもたらす もう1つの影響は 心の痛みと孤独感により 知的能力もかなり損なわれるというものです 特に 論理や推論を伴う 複雑なタスクではそうです 知能指数(IQ)が一時的に下がるのです


また ミゲルの雇用主たちが戸惑ったのは 彼の悲しみの深さだけではなく それが長く続いたことでした ミゲル自身も このことには混乱して とても恥ずかしいと思ったようです カウンセリングの中で彼は 「私のどこが悪いんだ?」と 「いい大人が 1年付き合った相手と別れて 1年間も引きずるとは」と嘆きました 実は こういう人は大勢います


失恋をすると いわゆる死別にまつわる症状が現れます 不眠症や侵入的思考のほか 免疫力も低下します 40%の人は 医学的に認められる うつ状態を経験します 失恋は 複雑な心理的外傷です さまざまな場面に影響が現れます 例えば シャロンは非常に社交的で 活発な人だったのです 毎週自宅でディナーパーティーを 開きました 2人は別のカップルと一緒に キャンプに出掛けたりもしました ミゲルは信心深くありませんが シャロンと一緒に 日曜は教会に行き 礼拝の会衆に 温かく迎え入れられました ミゲルが失ったのは恋人だけでなく 社交的な活動も全て失ったのです シャロンの教会で会う人々との 温かい交流です カップルとしての立場も失いました ミゲルは別れによって 自分の生活に 大きな穴が開いたと感じていましたが 彼が自覚できていなかったのは 「穴」は1つだけではないということでした これは非常に大事です 失恋が大惨事である理由に 説明がつくだけでなく 立ち直るためのヒントも ここにあるからです 失恋の傷を癒すには 人生に開いた「穴」を特定して 埋めなければなりません 本当に全部ですよ アイデンティティに開いた穴 自分の人生の目的を もう一度練り直す必要があります 社交生活に開いた穴 これは できなくなった活動のことで 飾っていた写真を外したことで 壁に開いた空白も該当します でも 穴を特定して埋めたところで 前に進む足を引っ張る行動を 避けなければ意味はありません 別れた理由を無駄に探し続けたり 元恋人の欠点を忘れて理想化したりして あなたの人生の次の章に 元恋人を 主役として登場させるような考えや 行動に陥ってはいけません 彼らは端役ですらないはずです


失恋を克服するのは困難なことです それでも自分の気持ちに惑わされず 回復に向けて一歩を踏み出せば 苦しみはかなり軽減されます それで救われるのは あなただけではありません 友人ともっと向き合えるでしょうし 家族と一緒に過ごす時間も増えるでしょう 言うまでもなく 職場での生産性が落ちて 何十億ドルもの損失が出ることも 防げるかもしれません


あなたの周りに 失恋した人がいたら 慰めの言葉を掛けてください その人が立ち直るために 周りのサポートは重要な役割を果たします 気長に見守ることです 新たな一歩を踏み出すまでには 想像以上に時間がかかるのですから 今まさに傷心状態の人は 忘れないでください あなたは自分の心の中で起こっている 困難な戦いに直面しています 勝つには努力が必要です でも あなたには武器があります だから戦いましょう 必ず立ち直れます


ありがとうございました


(拍手)


大抵の人は人生のどこかで、失恋を経験します。この場合だけに感じる独特の心の痛みにもっと注意を向けることで、人生がどれほど変わるか、想像してみませんか。心理学者のガイ・ウィンチは、失恋の傷心から立ち直るには、まず(別れの理由など)現実には存在しない答えを探したり、別れた相手を理想化したりする、自分の本能と闘う覚悟が必要だと明かします。そして、最終的に前に進むための方法を教えてくれます。人間は時として、心が折れるような痛手を経験しますが、だからといって我が身もろとも壊れる必要はないのです。 ( translated by Kaori Nozaki , reviewed by Moe Shoji )

動画撮影日:2017/4/24(月) 0:00
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